とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

藤岡、鮎川獅子舞。

ここ最近、芸能の奉納を見るとなると県外が多くなりがちでした。しかし!今回は地元群馬県藤岡市の「鮎川の獅子舞」に行ってきましたよ。

目次はこちらからどうぞ。

 日時の確認

群馬は獅子舞(三匹獅子舞)の数がとても多い。しかし「内々の行事」という色合いが濃いのか、日時は各団体に問い合わせないと分からない場合も多い。日付はまだしも時間は本当に謎で、(関係者の連絡先を知らない限りは)

・過去に行った時のことを参考に見当で行ってみるか
・PDF化された広報誌をネットの海から探すか
・役所に問い合わせて各団体に訊いてもらうか

という感じである。(役所の担当課さんには大変お手数かけております…)

今回は、大まかな目星だけ付けて突撃しようとしていたら、獅子舞を長く見てきた大先輩からオンラインで「公会堂前で9:30~」と情報を戴くことができた。

おかげさまで30分ほど余裕を見て前橋駅を出発。高崎で乗り換えたら、まったり15分くらい八高線。そしてJR八高線群馬藤岡駅から徒歩1時間ほどで鮎川!

管理人が行く場所の中では比較的都会で、駅から目的地・鮎川公会堂に着くまでの1時間でコンビニが4軒くらいある。そんなこんなで、猶予が30分あったハズだが着いたのは9:30ジャスト。方向音痴具合だけは計算通りである。

祭礼開始前

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国旗が交差した状態で掲げられ、公会堂には梅花紋の入った幕が張られている。皆さん「梅」といえば思い浮かぶ神社があると思うが、この鮎川獅子舞が奉納される北野神社の紋である。

ジャストに着いたが、まだ獅子の姿が見えず立っていたオジサンに「こっから始まるんですよね?」と聞いたりしていると 近所のお母さんが現れた。そして「あれ?孫!?」とオジサンに言う。「違ぇよw」とオジサンが全力で否定している。

お母さんはさらに「獅子舞好きなんて珍しいね。中学生?高校生かな」と。最早アラサーとは言い出せない状況に陥り「いやぁ、意外と若くないんですよ」と言うに留めた。

そうこうしていると獅子が姿を現し、花笠も登場!山形とか東京(多摩)で見た獅子舞に登場する花笠は女性だったり女装だったりしたが、鮎川の花笠は 裃姿(同じ藤岡だと紋付き袴とかも居るらしい)。
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一同が出揃ったが、獅子と一緒にいたおじいちゃんが「おーい、誰だコレ!綿菓子邪魔だよ!」と大声を出している。どうやら綿菓子機を載せた軽トラがこれから舞う場所のド真ん中に停まっている様子。

「今どかす!」と走って行ったのは、先ほど管理人が話しかけたオジサンだったとさ…。 

神社までの道中

公会堂前での「街道下り」を終えると、先ほどの国旗をくぐるようにして獅子舞連中は北野神社へ。幟を先頭に 花木持ち、花笠が続く。少し間をあけて囃子方、シシとカンカチが列になって進んでいく。
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以前は「道行(みちゆき)」として公会堂から神社までの間も演奏や舞を行っていたが、高齢化により終始舞い続けるのがしんどいとのこと。そのため、現在は公会堂を出てから&神社の手前 各数十メートルのみ舞うらしい。

公会堂~神社の途中あたりでは、普通に話をしながら歩いている。担い手の高齢化は悲しいコトだが、その間に地元の方とお話しすることができた。

それによると、幟の後ろを歩いているのは「花木持ち」。持っている花のようなものは、今回は舞われない演目「花水」に使われるものだそうだ。今日は公会堂と神社を往復するのみだが、秋祭には地区の辻で「花水」や「幣がかり」を舞うらしい。

「ちょうどこの道から一本外れた普寛堂の前でもやるよ」

と言うオジサンの言葉に、

「不吹(ふかん)堂!?富山から来た風鎮めの文化が藤岡に?」

と一人で興奮したが、列を外れて見に行ったら御嶽信仰のほうの普寛堂でしたわ。残念ちゃん(´・ω・`)…”ふかん”違いやでぇ…。

携帯のストレージをケチって写真撮らなかったので、一応Googleマップ↓で再確認。やはり鳥居に「御嶽山」の文字。

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普寛さんという人は 秩父・三峰山などで修行を積み、木曽御嶽山を信仰対象とする御嶽信仰の祖となった行者さん。※開祖はまた別の方なので「第2の祖」と言われることもあります。

この藤岡にある御荷鉾(みかぼ)山よりさらに郊外の上野村のあたりに「三笠山」という山があるのだが、この三笠山は普寛さんが開いたと言われている。この鮎川の地も訪れて布教してたのかもしれないなぁ。

列に戻ったところで、春にはやらない「村回り」が話題に上ったのだが、鮎川獅子舞は どうやら家々を回る「門付け」と言うよりT字路やY字路など「辻」「岐(くなと)」で舞うモノらしい。(元から門付け要素が薄かったのか徐々にやらなくなったかは未確認)


北野神社に到着

さて、そんな話をしていると あっと言う間に神社。鳥居の手前から再び演奏が始まり、そのまま境内へ。鳥居を入って正面の大きな建物が北野神社と思われる。屋根瓦に梅の紋も入っているし。

が、一同は その建物を通り過ぎて脇にある小さな境内社へ。
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そのまま、小さな社の前で一庭舞う。ちなみに獅子以外に 獅子と同じ装束の男子が1人。そして可愛らしい桃太郎のような恰好をした子が1人。どちらも銀の棒を打ち鳴し「カンカチ」と呼ばれる。
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舞が一旦終わると、一同は先ほど素通り(?)した大きい方の神社前に並ぶ。神職さんが拝殿内から登場し、清めてもらっている様子。ちなみに鮎川北野神社の神職さんは女性でした。
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それが終わると、再び小さな社の前へ戻り「剣の舞」。少し舞ったところで、まず先獅子が社の前で四つん這いに。そして、首と腕を横へ振り 上へ仰ぐ。このポーズ、なんだかシャキーンとしててカッコイイ。
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その後、いったんカシラの紐を緩め(ているように見えた)世話役さんみたいな人たちがカシラの口に短刀を咥えさせる。
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咥え終えてカシラを締めると、再びグゥワッ!っとゆう感じでこのポーズ!
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後ろから見ても前から見てもカッコイイなー。ちなみに、鮎川のシシも腰に御幣↓を付けている。
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なんかこのへんの動物的な動き、好きだなぁ。遠吠えするみたいに真上を向いたり4本足で這うように動いたり。
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そして、先獅子に続いて後獅子も短刀を咥えると2匹とカンカチたちは揃って舞い始める。(この間、雌獅子は横にハケて太鼓を打っている)
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2月に獅子舞というコトは モトは初午2/11だったのでは?と思うわけだが、初午と言えば稲荷神の祭り。だとしたらあの小さい社は稲荷社なんだろうか。

いつもなら明記してなくとも しつこく「扁額は無いか」「神紋は?」「狐いるかな」
などと見ているのだが、写真を撮っている人を邪魔するまいと思ったせいか何だかわからないが詳細を確認し忘れるという失態。だって人の写真に写り込んだら悪いなと思うじゃないか…(小心者)

仕方がないので帰ってから県立図書館へ行き、モトは「初午の日」に奉納だったのではないのか?と調べていると石川博司さんの冊子にたどり着いた。その「獅子舞雑記帳」「私のまつり通信」などを読んでいると、

どうも当初は初午の日だったらしいのだが「その時期では寒くて笛が吹けない」という理由から日程が2月終盤へと変わったらしい。「人が集まらないから休日に移動」だけじゃなく寒さの問題があったのね…(´・ω・`)

寒さというか、湿度が低すぎて笛が鳴らないという意味かな。

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結局、何社なのか自分の目で確認することはできないまま、獅子舞連中とともに公会堂へ戻る管理人。

公会堂への帰路

その途中、獅子頭にまつわるエピソードが明らかに!

「漆を塗り直すとき髪も頼んだら元と違う感じになった」

…え?獅子頭って結構大事なモノだよね?直すときって、なるべくモトと同じになるように直すんじゃ…。公会堂に戻ってからも獅子の毛が気になって、カシラを外そうとしているオニイサンに近づいてみる。
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頭の上にまくり上げてある茶色い布が舞っているときは後頭部から背中まで垂れていて、そこに獅子のタテガミになるように馬の毛が付いている。

オジサンの話によると「後頭部の部分の毛(巻き毛)がモトの感じなんだけど」とのこと。布の両脇から見えてるウェーブ毛のことね。一方、獅子頭に直接植えてある毛は中の人(?)の頭の両脇に垂れているヤツ。

…え…毛質まるっきり違いますやんΣ(・ω・ノ)ノ!どれくらいって、マドンナと有村架純くらい違う。いや、もう獅子的にはこんな気分だよね↓
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なんかこうね、勝手に「伝統芸能ってずっと姿が変わらないのかな」「昔っからずーっとおんなし道具使ってるのかな」みたいに思っていたんだけども、新調した時に結構変わっちゃう団体さんもあるらしい。

それは職人さんの考えとか団体の意向とかいろんな理由があると思うのだけど。だからこそ、見たことあっても ちょくちょく見に行かなければ現状は分からないし、ファインダー覗いてばかりは嫌だが写真とかも大事だなとか思ったりしたわけでして。

ちなみに、カシラの裏側(中身?)を見せていただいたら頭にかぶるカゴ部分に 紐で作ったネットみたいなものが!手ぬぐい巻いて 直接カゴ被るんじゃないんですな。痛さとか安定感が良くなるんだろうか?逆にポヨンポヨンしたりしないのか?
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そんなことを考えながら写真を撮りまくっている間、皆さんはカシラを脱いで 水分補給。これも以前は無かった風景なのだそうだが、休憩ナシでは獅子たちの息が上がってしまうためインターバルを入れることになったらしい。

一息入れた後は、公会堂前で「綱切り」。花笠の持つ縄に引っかかったり、縄を挟んで前獅子・後獅子が闘うような場面があったり。
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管理人は以前から、この「綱切り」という演目を不思議に思っている。神楽で「綱切」って言ったら大蛇に見立てた綱を真剣で斬って無病息災を願う演目か最後に行う神送り的な演目だけれど、この綱、大蛇ほど太くないし コレ最後の演目でもないし。

いや、分かる人に訊けば一発なんだと思うけれど…。縄って結界的なモノの象徴なのかな と思う事は多くて、各地の祇園祭とかでも巡行が始まる時に先頭で稚児が綱を切って始まったりするワケで。

あとは、門付けとかでも獅子を先導する人が家に張られた注連縄を切って 提灯を持って立つのが、「次は、この家に門付けだよ」の合図だったりするし。

でも、獅子舞の綱切りはカンカチや獅子が この綱の向こうとコッチを結構行ったり来たりするワケですよ。くぐったり、越えようとして引っかかったり。それがすごく不思議でならなくて。あれ?コレ別に結界的なモノじゃないんだな、と。

だからむしろ紙垂とか付いてないし 単なる「綱」なのか?と考えたり。例えば「ボンゼン掛かり」とか「かかす(カカシ)」的な、偶然そこに在った人工物に興味を持って
おっかなびっくり近づいたり飛びのいたりを繰り返して最終的には それを手に取ったり跳ね飛ばしたりする感じの。

「綱切り」でも 何度も同じような動きで近づいた後に、太鼓のバチを振り下ろして…綱を切る! ↓
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次こそチャンスがあったら誰かに訊こう…。

そしてついに最後の「雌獅子隠し」。中央に立った花笠2人の間に雌獅子が居て2本のバチを水平に持っている状態で雄獅子から「見えていない」コトを表しているらしいとのこと。
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他の団体や演目と比べて、この雌獅子隠しは すごく歌が聞き取りやすいというのが一番の感想。

〽思いがけじの朝霧に 霧に雌獅子を隠されたの
〽霧に雌獅子を隠されて 心ならずも狂う獅子かの

いや、聞き取りやすいとか言っておいて「狂う獅子かの」か「苦ししかな」か「苦しい鹿の」か謎…。ともかく、急に霧で雌獅子を見失って動揺している場面だ。

その後、〽南無薬師 想いし妻に逢わせてたまわれ
薬師如来さんに「大好きなあの人に逢わせて」と願掛け。

〽薬師の御夢想 はや見え候 尾花隠れの見ゆる嬉しや
薬師様の御夢想(ごむそう=夢のお告げ)が早くも見えた!
ススキの蔭に居るって分かって嬉しいよ!

と、無事雌獅子に出会えた様子。よかったよかった。
※歌は分かった範囲で文字にしたので正確ではない可能性があります

雌獅子隠しが終わると、お弁当などが届いて関係者の方は公会堂で昼食に入るようだった。直会的な感じなんだろうか。管理人はここでカシラの写真を撮らせて戴いたり、獅子舞を長く見ている大先輩方の会話を聞いて自分のヒヨっ子具合を実感したり。

獅子頭
前獅子が緑。毛は栗毛(茶)
中獅子が赤。毛は葦毛(白)
後獅子が黒。毛は青鹿毛(黒)
雄2匹は2本角、雌は宝珠を頭上に頂く。
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さらにこの後「髪が多すぎて顔が見えないから近所の美容室の人が切った」という獅子頭かみのけエピソードⅡを聞くこととなった。もう、タテガミが気になってしょうがなくなってきたよ…。

ちなみに以前は高崎競馬から貰ったりしていたそうだが、現在はもう高崎競馬は運営していない。ので、馬の尻尾の毛自体が入手困難になりつつあるとか。確かに、ある程度の長さがないとだしなぁ。

昔はよく手に入ったモノも、わざわざお金を払って誰かから買うようになる。藁とかもそうかもしれないですな。県内、いくつか乗馬クラブがあるのでそんなとことも協力体制的なの出来たらいいな。なんて思いましたとさ。

カンカチのこと

後で聞いた話では、本来は獅子と同じ装束を着たカンカチが2人居て前獅子・後獅子と対になり全く同じ動きをするのだという。

管理人は今まで比較的

・そもそもカンカチが居ない
・獅子と違う派手な装束の幼いカンカチのみ

という獅子舞を見ることが多かったので「カンカチ=獅子とは別物の御稚児さん的なにか」という感じで見ていたが…。今回の獅子の動きを「模倣する」役回りというのを見て「カンカチの本番の中に獅子になる練習が組み込まれている」というような不思議な感じがした。

そう言われてみれば板橋春夫先生が「カンカチは獅子の予備軍」というようなことを書いている本があったような…。

名称については様々な表記があるが、子供らの鳴らす金属の棒の音が「カン、カチ」というのでこの役回りや棒自体を「カンカチ」と呼ぶらしい。そこまではなんとなく腑に落ちた気にもなるのだが、カンカチという存在自体も結構謎で県内だけでも

・カンカチを打ち鳴らす子供をカンカチと呼ぶ地域
・天狗面を付けた役をカンカチ(冠勝)と呼ぶ地域
・かと思えば 天狗役とカンカチが別に存在する地域

など役割や年齢、人数などには差がある。

カンカチは鳴らし方と言うか打ち方が、ササラで獅子を鼓舞する様子に似ているような気がした。羽場日枝神社獅子舞などに登場する竹製のアレだ。

この「ササラ」が指す対象も幅広く

・獅子を鼓舞する道化役が使用する竹製の楽器
・花笠が持つ竹製の楽器。
・獅子舞自体を「ささら」と呼ぶ
・シシが背中に付ける依代をササラと呼ぶ

などかなり多岐にわたる。

しかし!カンカチ・ササラ共にこれだけ多くの意味を持ち、使い方が似ている地域も多いながら、多分だけど金属の棒をササラと呼ぶところは無い。

韓国の農楽(ノンアク)の楽器ように、金属-植物/皮みたいな材質の違いが何か重要なんだろうかと考えたり。※韓国の芸能・ノンアクやプンムルノリでは金属が天、皮や植物が地を表していると聞きかじったことがある

カンカチと獅子、天狗、金属の関係は気になる。カンカチが登場する地域の獅子舞も
もっといろいろ見てみたいなぁ。

*おまけ*

この後、鮎川の近くの平地神社へ行ったら「ハンドメイドのために、よく木の実を集めに神社に来るの」というお母さんに遭遇。手元には杉の実や松ぼっくりが。鎮守の森にそんな使い方があったとは…(;゚Д゚)

そんな感じで神社を年中回っている方でさえ「え?今日獅子舞があったの?」「群馬に獅子舞ってあったんだねぇ」「えッ3匹もいるの!」という状況。

三匹いて一人立ちなのは普通だと思っていたので、東京に行ってから「え、獅子舞って3匹じゃないし4本足なの」と驚きはしたけれど…。たしかに管理人も最近まで、こんなに多くの地域に獅子舞があるとは知らなかった。

当ブログでも群馬の方から「群馬に獅子舞があったのか」「見たことなかった」「群馬の獅子は二足歩行(一人立ち)なんですね」という旨のコメントを戴くことがある。

観光化された祭礼を見ると「内々で」続けることで本来の姿を守ることに意味があると感じる一方で、もっと県内の人に群馬にも獅子がいると知ってほしいかも…とも思った日曜日でしたとさ。
(/・ω・)/