とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

「もののけ姫」考 (2)サンとモロ

昨日に続き、

もののけ姫に関するメモまとめ。

※需要がなくても私のために続きますよ(笑)

 

今日はサンとモロについて。

 

*名前の由来は「三の姫伝承」

三の姫伝承とは日本各地に残る民話の一系統。

異形のものに助けられた男性が、

「礼としてお前の娘を嫁にもらおう」と言われます。

どのタイプ話でもだいたい嫌がる姉達に代わり

最も優しく勇気のある三女(末娘)が嫁に行きます。

 

もののけ姫は、

初期段階ではこの三の姫伝承を骨格にする予定だったとか。

※こっちの内容は映像化されませんでしたが絵本が出ています。

そのため、主人公になる予定だった三の姫から取って

サンという名前にしたそうです。

 

映画の方では、

ある村から生贄として出された赤ん坊がサンだ。

とモロが言っているので

人身御供的性質は変わっていないみたいですね。

 

*サンの故郷と狼信仰

どこのどんな村とも明言はされていませんが、

狼であるモロを神としているので

山岳信仰や狩猟民文化があった集落かも

しかし山の神であるモロに

獲物の一部でなく村の赤ん坊を捧げている。

多分これは既に狩猟が行われていなくて、

尚且つ森から命を頂く礼ではなく

森を拓くことへの詫びだからと考えられます。

 

オオカミは強く賢い肉食動物です。 

そのため狩猟民文化圏で信仰されることが多く、

日本でも古くは神やその遣いとされました。

オオカミから信仰が離れて行ったのは、

人が耕作をし家畜を飼うようになった時。

コメを食べてしまうネズミを退治し、

尚且つ家畜を襲うほど獰猛ではない動物

=狐へと信仰は移ってゆきました。

 

サンの故郷も、

サンを贄としてから間もなく農耕文化圏となり

狼信仰を手放してしまったかもしれません。

 

*サンの縄文的服飾

 大きな耳飾りや顔の刺青、

顔を隠すだけにしては厚手の呪術的仮面。

 サンの格好は非常に縄文的です。

サンの故郷が狩猟民文化圏だったとしても、

 ここまで原始的な服飾ではないはず。

しかも、赤ん坊の時点でモロに渡されたので

モロはサンを全くの狼として生かすこともできたハズ。

 アマラとカマラのように四足歩行で裸で、話せない。

そうなってもおかしくなかったサンに

服や装飾・刺青・武器という人間的なものを与えたのは、

 他でもないモロです。

 

 

その点については、

モロもサンも語ろうとはしません。

 しかし、

 大人によって人間社会から投げ出されたサンが

 いつか社会に帰れることになった時を思う親心か。

人間が自然を畏怖しともに生きる

という縄文的関係への願いか。

そんなものが底に流れている気がしてなりません。

 

 

ただ、仮面についた尖った耳と

 肩に羽織った白い毛皮だけはサンが望んだのかも。

勿論、防寒の意味もあるかも。

でも、昔の人が儀礼に際して獣や鳥の皮や羽を身につけたように、

サン自身が自分の存在を動物にちかづけるための

 衣装的意味があるのでは?

とも思えます。

 

 

 全くの妄想(?)になりますが、

 サンの持つ刀も本来は人と闘うためでなく

 牙も爪もない人間が森で生きるための物。

 

自分たちの世界を広げるため見境なく木を切り人を切る刀に対して、

自分を護るための最小限を切る刀。

自然界での生き方の象徴。

そんな気がします。

 

 

 また、とても実用的という意味で

 アシタカから渡される玉の小刀とは対象的。

 森で生きる道=大きな刀しか持たず生きてきたサンへの

 人としての道の象徴が小刀かもしれません。

  

「私もいつもカヤを想おう」

 とか言ってソレ、サンにあげちゃうのかよ!

 アシタカ軽い男だなこのヤロー!

 

と私はいつも思ってしまいますが、

たぶん小刀(人間社会で生きる道)を渡されて初めて、

ラストシーンでサンが森を「選ぶ」ことが可能になるワケです。

  

…妄想過多ですみません。

 

 

*モロの名

 ちょっと飛びすぎたので、

 最後に少し地に足を付けます。

 

モロの名前の由来は公式な話題に上がっていません。

 ので、音だけに限った話になりますが

 有力そうなのは2つ。

 

まずは皆さんに馴染みのある「すべて、あらゆる」という意味。

モロに、なんていうときの「モロ」ですね。

 

 ふたつめは神籬(ひ/もろ/ぎ)という言葉の一部を成す、

 天下るという意味の「モロ」。

 

アニミズム的な多神教の日本を思うと、

一神に「すべて」という名を与えるとは考えづらいので

後者でしょうか。

 

 

 今日も答えが出ない話をダラダラとしてしまいましたが。

 今日ちょっと出た小刀については、

 また次にカヤ関連で少し触れたいです。

 

 

 

それでは今日も唐突に終わります!