とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

おしらさま。

 

岩手県遠野市にある伝承館に
伝統的な南部曲家が展示されていて中にも入れる。 

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曲がり家は、寒冷な地域で馬を飼うのに適した家屋。
家全体がL字型になっていて、
長いほうの直線に人間が住む造り。
90°に曲がったところが土間になっていて、
短い方の直線が厩になっている。

この、馬と人が一つ屋根の下に住む家!
ここから生まれたのがオシラサマの物語です。

アジア一帯に馬と人間の娘が恋をする話は多く
これらの物語群は「馬娘婚姻譚」と呼ばれます。

が、物語のパターンは様々で

①馬が一方的に娘に恋をする=馬恋慕型
②娘が一方的に馬に恋をする=娘恋慕型
③馬と娘が想い合う=相思相愛型

と大きく3つに分かれます。
中国などアジア諸国に多いのは①であり、
遠野のオシラサマは典型的な③の形。

日本では大体いずれの物語でも、
舞台となる家には美しい娘と父、
そして馬が住んでいます。

つまり、男の跡継ぎがいない。

遠野のオシラサマ伝承では、
娘と馬どちらともなく
互いを慕い愛するようになり、
娘が厩へいくことも増えていきます。

不審に思った父は娘に訊き、
(またはこっそり厩へ見に行き)
事実を知ると非常に怒りました。
そして、娘がいないうちに馬を殺し
桑の木に吊るしてしまいます。

それを見て嘆き悲しんだ娘が
吊るされた馬に縋ると不思議なことに、
馬の皮が娘を包んで天へ上がってしまった。

娘の馬もそれぎり帰ってこないが、
その家では大層いい蚕が取れるようになって
何代先までも栄えたと言います。


…と、こんな話。 

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↑ 伝承館のオシラサマたち。実際はひとつの家に一組。

民話の様々なパターンの中でも、

*馬の屍なり皮が吊るされるのは桑の木
(※お蚕様は桑の葉で育ちます)

*馬は必ず雄。牝馬が青年に恋する型は無い
(※当時機織は女性の仕事でした。)

というところは

国内ほとんどの地域で変化がありません。

 

*娘は家に残りよい絹糸の紡ぎ手・織り手になる
*馬は殺されずに失踪し、代わりに厩や足跡に蚕が湧く

などなど結末が変化する部分もありますが、
いずれにしても日本の馬娘婚姻譚は
養蚕に深く関係しているわけです。

何故だろう。

馬が蚕と関係するにはいくつか考え方があって。
一番単純なところでは、

*顔が似ている(お蚕様は他の芋虫より馬面です)
*蚕の背中の模様が蹄に似ている

など。

少し難しいところでは、
陰陽五行説で世の全てを分類してみると
馬(男、死、動)と
蚕(女、生、静)が真逆であるため、
片方が死ぬ/隠れる/裏がえるということが
そのままもう一方を意味する。

とか。

中国でも蚕に関する作業や節句
午の星が隠れている時に行われたそうです。

馬娘婚姻譚の中でも、
馬と蚕が同時に出てくる型がありません。

「馬を助けたから蚕を見つけて家が栄えました」
という理にかなった筋書きではなく
罪なく恋に落ちた馬と娘が姿を消して、
馬を殺した父親と子孫が栄えるというオシラサマ伝承。

一見不思議な話ですが「五行説」の考え方から
馬が死ぬor失踪するかという出来事を経ないと、
蚕として出現できないからなのかもしれないですね。

長くなってしまうので今日はここまで。

ですが、オシラサマ伝承は

世界の寓話や神話の基本原則に沿わない不思議な民話。

また機会があったらそんな所も考えてみたいです。