とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

意外と気になる達屋酢蔵神社。

*達屋酢蔵神社に出会う*
下社御柱里曳を見に下諏訪に行った先月、
守矢資料館に行くため茅野にも降りた。
駅から資料館方面に歩き出して数分、神社を発見。f:id:ko9rino4ppo:20160618213737j:image
拝殿のほうへ行き、扁額を見てみると…
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「達屋酢蔵」で1つ、ではなく
「達屋」と「酢蔵」は並列の関係のようだ。

境内には、今までこの神社の御柱だったらしき丸太↓
やっぱりどの神社も建てるんだな。
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*酢蔵とオモイカネ*
境内にあったステンレスの説明版を読むと、
酢蔵神社は「酒蔵」の字を当てることもあるらしいが。
原義は「簀蔵」。簀の子(すのこ)の「簀」だ。
つまり食糧貯蔵用の校倉造りの倉庫のコト、だそうだ。
倉庫であるからして、たいていは寺社や館屋に付属する。
とも書かれていた。

こちらの祭神「八意思兼(ヤイオモイカネ)」は
知恵や知識・思考の神様といわれ受験生に人気の神様。
受験生の見方は天満宮だけではないのだ!

その明晰な頭脳で、天の岩戸御隠れ事件でも
「どうやってアマテラスを外に出すか」
の案を出し見事成功させた神様だったりする。
そんな彼はそのほかにもいろいろな仕事をしたわけだが、
結局信州に降り立って「信之阿智祝」の祖先となった。

信之阿智祝は、阿智村を治めた豪族らしい。
祝(ほうり)というからには諏訪大社の大祝などと同じく
宗教的権力と政治的権力の双方を掌握していたのだろう。
(昔は大体そうだった、といえばそうだが)

阿智といえば昼神温泉と阿智神社。
この阿智神社の祭神もオモイカネさん。
あとは、戸隠神社にもオモイカネさんがいらっしゃる。
(戸隠には天の岩戸事件の立役者たちが沢山いるが、
 当のアマテラスだけは見当たらないところが気になる)

 

*「達屋」と明治政府がつれてきた神様*
一方の達屋は「館屋」が原義で、客人をおく建物のコトらしい。
ほかにも立屋、建屋という字を当てたことから
「建築に関係ある神社だろう」という
明治政府の短絡的な考えのもとに
手置帆負(タオキホヒ)・彦狭知(ヒコサチ)が祭神となった。

この二神は、何をした神様かというと
アマテラスが岩戸の隠れてしまったときに
木を伐りミスノミアラカ(瑞殿)という御殿を作った。
後はご存知の通りアメノコヤネらが祈り
アメノウズメがセクシーな原初神楽で神々を笑わせ
無事に出てきたアマテラスはこの御殿に入ったのである。
だから、建築の神様。

さて、神社を見てみると
ほかの神社と同じく風通しがよさそうな
前面総格子の拝殿↓。
もっと蔵っぽかったりしないのが少し残念。
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さて、話を戻し…タオキホヒ&ヒコサチについて
「明治政府の短絡的な考えのもと」
とわざわざケンカ売ってる書き方をしたのは、
この説明板が明確に
「現在の祭神は明治以降のものである」
と書いてくれているからだ。
さらにありがたいことには、
それ以前の祭神についてもしっかり書いてくれている!
2つの神社の名前と新入り祭神さんについて話したので、
つぎはモトの神様について。

*天白神と五龍女神*
説明板を読むと、まず達屋神社の古参祭神さんは
「天白神(ミシャグジ)」と書かれている。
ミシャグジ様には天白さんとゆう名前もあったの?
さらに読んでみると
「諏訪二十八天白の総社・天白七五三(しめ)社の聖地」
と書かれている。
どうゆう流れでミシャグジ様は「天白」という名前に?
ということについては一切かかれていない。
自分で調べよということか…。

そして、次の行に「神長守矢書曰」として
「楯屋神社は天白楯・天白太刀を併せ祭っている由」
という内容が書かれている。
そして、御神体は霊石であり今もあるのだとも書いてある。
御神体は、ミシャグジ様だからやはり石なんだな。
ということはその太刀と楯は「神器」という扱いか?

そして、もうひとりの古参祭神は五龍女神。
説明板には「達屋二社 五龍三尊 二体あり」とかかれている。
(語呂がイイが別に俳句ではない)
この神様は奈良時代から陰陽寮(つまりは朝廷)に重用され、
江戸時代までその影響が残ったそうだ。
そのため神社としての勢力はなかなか強大で、
南北栗林郷の産土神として長く栄えたそうだ。

この栗林郷というのは、
ここら辺の古い地名なわけだが。
言い回しからすると
「力が強大だから招いて祀った」のではなく、
この土地にモトモトいた神様が朝廷にも重用されたので
長いこと地元でも勢力を持った神様になったということだろうか。

五龍という言葉は色々なところでよく出てくるので、
この五龍はどこからとった五龍なのかよくわからない。

長野で五龍といえば白馬五竜!
と、スキーが好きな人なら思うかもしれない。
しかし、この山に「五竜(御菱)」と名がついたのは
江戸時代か、早くとも武田信玄が現れてからである。

また、島根にも五龍山という山があり
五色の龍がいる「新宮神社」というのがある。
祭神はウケモチ・ウカノミタマ・オオヤマツミなので
あんまり龍神・姫神な雰囲気はないが…。

陰陽寮に重用されたということだから、
五行説が入ってきてからと考えれば単に五行の「五」か。
それともそれ以前から「五竜」という名前だったから
五行説に乗っかってもてはやされたのか謎。
それか、5つの川とかを神格化したかもしれないし。

まぁ、龍そして女(ひめ)という字がつくのだから
十中八九、水神系神様なのだろうとなんとなく思った。
なんといっても境内の水がキレイだったしなぁ。
鯉が、空中に浮いてるようだよ。
大袈裟にいうわけじゃなく、すごい透明度。
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ここの水はキラキラした気持ちいいパワーありそう。


*横内不動尊さんたち*
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そして、その神社に隣り合って建っているコチラ。
下がっているのは鰐口ではなく鈴だし、
またこの風通しのよさそうな覆殿に末社でも入ってるのかな?
と覗いてみると…

…((;゚Д゚)!?

予想外に大迫力の不動明王様が!
そして俱利伽羅龍と両脇侍の童子まで揃っている!
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説明板を読んでみると、
この土地(横内村)には古くから護摩講があり
信者たちは行屋にこもって修行を行ったそうだ。
そして高島城主・忠誠が病気になった際に
この土地の講を招いて護摩を焚いてもらったところ
たちまち平癒したのを喜び 太刀を二振与えたと書かれている。
これを神社の宝物として奉納したと書いてあるので、
さっきの太白太刀とはコレなのかもしれない。

参道には将軍地蔵尊↓が居たり
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魔王第六天↓が居たりと盛りだくさん…。
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将軍地蔵尊愛宕修験の神様・愛宕大権現の本地仏
つまり愛宕権現が「人を救うために現れた姿」で、
その本当のお姿は将軍地蔵尊ですよー。という本地垂迹説。

一方の魔王第六天は他化自在天さんの別名。
「他化」とは他人の得た教化を奪って自分のものにするコト。
たびたび修行を妨害する悪魔として登場する一方で、
仏法を守護する天部として修験道では大事にされている。

どちらも修験道カラーの強いカミサマ。

*おまけ*
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これが、達屋酢蔵神社の拝殿内。
かなりスッキリしていて、
「本来拝殿とはこうあるものかもしれない」
と思ったり。

ところであの奥の扉の透かし彫りは「梶」。
諏訪大社の神紋と同じではないか!
と調べてみると、ここはモトモト大社の摂社とのこと。
「達屋社」「酢蔵社」という2つの摂社が合体して
この土地に独立(?)したらしい。
ほかにも周辺にそういった神社がいくつかある。

ちなみになんと、
摂社の中でこの神社だけは
大社の御柱と同じ「八ヶ岳御小屋山」から
御柱御用材切り出すことを許されているそうだ!

そしてこちら。
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実は、1回目にここに来たときは
「何この島津藩マーク…」と思っただけで
写真も撮らずにスルーしてしまったのだが。

そのあと神長官守矢資料館に行って
祈祷殿(だったか?)の屋根に入っている
守矢家の家紋を見た時の衝撃たるや。
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コレじゃん!
なんでさっき写真撮らなかったの!
知らないって恐ろしい!
(「左十字」と守矢氏の雑考はこちら

そして上社宝殿遷座祭に行った先日。
無事、再訪して写真撮影しましたとさ。
赤い字はボンヤリしていてうまく読めないのだけれど、
「〇矢 年戌〇」(〇は読めなかった字)と書いてある。
サンズイは見えないけれど一文字目は
文字の下の線からして「守」じゃなく「洩」っぽい。

守矢氏の家紋は左十字、洩矢神社の神紋は柏…
とゆう謎の食い違いに「?」となっている管理人だが、
もしこの字が「洩」なら洩矢も左十字と関係あることになる。

でも中のものを覗くわけにもいかないし、
何の神様の祠かわからずじまいだった…。

かなり摂社の中でも特別な位置にありそうな…
気がする、達屋酢蔵神社でした。