とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

高尾山の天狗とか狐とか。

飯玉神社にはまっている途中だけれど、
今日は飯「綱」大権現!
八王子市・高尾山で登山してきた。


*天狗のハナシ*
まぁ高尾山を歩いたことがある人は
見たことあるだろうとは思うのだけれど、
まずこれが高尾山薬王院の本尊といわれている
「飯縄大権現」さんの姿だ。
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狐に乗ったカラス天狗である。

そしてコチラ、カラス天狗像。
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この像の背景のハデハデなほうは
「本社」つまり神社である。ちゃんと鳥居もある。
そして地味だけど彫刻が圧巻な方↓が「本堂」
つまり寺院ということである。
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神社があるからには、ついてまわるのが神仏分離令
飯綱さんも「権現」という称号を持った神様であるからには
神社にいちゃいけないはずなんだけれど、
どういうわけか高尾山は無事だったのね。
よかったよ。猿田彦とかウカノミタマに挿げ替えられなくて。
※別にアンチ猿田彦とゆうワケじゃないんだけど。

じゃあ彼は神社(神道)の神様扱いなの?
ってことになると
本堂には開山当時の本尊である薬師如来もいるのだけど、
中興本尊として飯綱権現も祀られているので
なんか さらにややこしいことになっている。

「権現」号だし、山伏姿だし、仏教寄りなんじゃないの?
って簡単に済ませちゃいたいんだけれど、
そもそも日本の天狗ってモノ自体が日本のオリジナルだから
そういう意味で飯縄権現は完全に日本産といえるのかもしれない。

山岳信仰に関連深くて、日本オリジナルってあたり
蔵王権現さんあたりに近い雰囲気だな、
みたいなイメージを(勝手に)持っている。

天狗像前で大天狗と小天狗の像を見た登山メンバーが
「天狗は2種類いるのか…」
と言っていたので一応、
知名度が高いほう、赤くて鼻が高い大天狗と
河童みたいな顔してるほう(?)、小天狗がいる。

…自分で河童みたいのは言ったものの、
小天狗の見た目にいちばん近いのは迦楼羅天だろう。
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海洋堂迦楼羅天のフィギュアは
なぜか肌が緑色に彩色されているのだが。
小天狗は「木ノ葉天狗」のほか
「カラス天狗」と呼ばれることが多く、
また古くはトンビの羽を持つと考えられたりしていた。
(和歌山の烏天狗のミイラってやつもトンビを使ってたらしい)

カラスであれば黒、トンビであれば褐色、
本場インドの迦楼羅の原型・ガルーダならば金色
のはずなのだが…。

そして一方の大天狗は、
大体の人が赤と考えているだろうと思う。
これはペリーの肖像のように赤ら顔の異人だ
という考え方や
赤く彩色され高い鼻を持つ伎楽面がモデルだ
とかいろんな説があるが、他にも無理に考えれば

①天狗は火と関連付けられることが多いため
 その体も五行説で火をあらわす赤となった
②天狗は流行病除けの神事・信仰でよく現れる。
 赤べこetc同様に病除けの力を持つ色として赤となった
③別に最初は真っ赤ではなかったが、
 達磨などのように張子として作られた際に赤にしたのが
 絵などにも適用されてしまった

なども考えられる。が、
天狗の歴史に首突っ込むと大変なことになりそうなので、

天「狗」というだけあって中国では
大気圏に突入して火を噴き音を立てる流れ星が
咆哮しながら天を掛ける犬とされていたってことと。

それが平安時代
「中国から来てた人が流れ星を見てそう言ったよ」
という話が出たっきり全くはやらず
次に書物に現れた時にはもう人間みたいな形になっていた。
(;´Д`Aナゼダ…
ってことくらいで今回は深入りしないでおこうと思う。

あとは、傲慢・不遜であることを「天狗になる」というが
天狗というのはもともと
「名利を得ようとする山伏が死後堕落した姿だ」
という説明もあるわけで。
それは多分、反山岳信仰勢力が言い出したんだろう
とゆう気がする。
(都の陰陽師とか?)

薬王院本社横には、この2種の天狗を祀る天狗社があった。

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*飯縄という名前*
この飯縄権現という名前だけれど、
長野・飯縄(飯綱)山の山岳信仰から起きたから
というのが一番シンプルでわかりやすい由来。

だが、そもそもこの山はなぜ飯縄(飯綱)山なのか?

①イイヅナというオコジョのような動物がいる説
別に伝説上の動物とかではなく、
ウィキペディアとかで写真も出てくる。
このオコジョ系の動物に関して、
日本には昔「いいづな(イヅナ)遣い」といって
イイヅナの動物霊を使って呪術を行う巫女さんが居た!
といわれている。

そういえば「地獄先生ぬ~べ~」の系列作品で
霊媒師いづな」シリーズというのがある。
ぬ~べ~の中では中学生だった葉月いづなが
霊媒師として現代人のトラブルを解決したりするマンガだ。

…脱線したぞ

ともかく、そのイイヅナ自体
もしくはイイヅナ遣いが多くいた山だったのでは?
という説がこちら。

②本当の表記は「飯砂山」説
さて、こちらの説の「飯の砂」とはズバリ
テングノムギメシ」だろうと言われている。
サラッと言うな!なんじゃそりゃ!
という人もいると思うけれど、
菌類や藻類の塊と言われている。
見た目は砂や小石のようだけれど食べられるのだ。

いまでも飯縄山系の黒姫山や戸隠山
そしてわれらが群馬県嬬恋村あたりにあるらしい。
古くは飯砂のほか長者味噌などと呼ばれていたという。
(これがあったであろう場所は味噌塚などと呼ばれている)

飯縄山では天狗信仰も相まって、
飢饉の年に天狗・飯縄三郎坊が里に舞い降り
 山にある食べられる砂を与えて人々を救った」
という伝説も残っている。
実際、山伏さんたちは修行中の食用にしていたそうなので
「天狗が神通力で砂を食用に!」
みたいなメルヘンでなく実際の話なんだろう。

飯縄権現とキツネ*
本社(権現堂)の虹梁にも狐が彫ってあった。

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↑こちらは鍵をくわえている

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↑宝珠、頭に乗せてる。かわいい。


飯縄権現は狐に乗っている。
天狗は自力でも飛べそうなものだが、
なぜ狐に乗って飛翔しているのだろうか?

この狐に乗って飛翔する烏天狗という像容は、
飯縄権現に限ったものではない。
八王子・絹の道で訪れた道了堂の「道了尊」
数々の神社の末社によくある「秋葉大権現
特に後者は飯縄さんとの見分けはほぼつかないほど。

それらの「狐に乗る」という姿は
インド生まれの「ダキニ天」がルーツと思われる。
と言ってもインドにいた頃のダーキニーさんは
ジャッカルを眷属として従えていただけで
乗っているわけではなく風を起こして飛ぶ羅刹女だった。

それが日本でダキニ天となってから
稲荷信仰やら弁天様とフューチャリングされた結果(?)
狐に乗った美女になったわけである。

そしてその乗り物を「おっ!それいいじゃん!」
と導入したのがこの権現様たち。
何しろ、その頃はダキニ天法という外法は
恐れられると同時に
効果絶大であるともてはやされていたというし。
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※こちら本社横の「福徳稲荷」も
 豊川稲荷同様、ウカノミタマでなくダキニを祀る
 仏教系お稲荷さんである。

しかも当時、同時に流行っていた愛宕信仰は
愛宕山太郎坊(火の神・カグツチの化身ともいう)
つまり天狗に関する信仰。

なので、当時は天狗×狐といったら
呪法界の最強タッグみたいなカンジだったはず!

まぁともあれ、
飯縄権現に関しては、テングノムギメシの件もあり
もともと食糧難関係の信仰的な側面はあっただろうけれど、
この白い狐という(お稲荷カラーの強い)乗り物によって
さらにその信仰の全貌は複雑になった気がする。

その混沌の結果、
全国の飯縄権現を祀っていた神社の多くは
現在では祭神を神道系の五穀豊穣の神々
ウカノミタマやウカノカミに譲ってしまっている。
よく分からないものは、いかに強力であろうとも
みんながよく知っている長いものに巻かれてしまう。
ということか…
そういう意味でも薬王院は貴重なのだ!
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…あれ…この烏天狗も青…?鬼と同じく赤と青はもはやペアなのか…


*追記*
烏天狗×狐というタッグについては
流行ってるものを組み合わせたよ!
という安直な理由を紹介してしまったが、
もう1つ以前に聞いたことがある説を紹介して終わる。

それは、某戦法の犠牲になった烏とキツネを弔い
神格化した神が飯縄権現だという説。

もののけ姫か何かで、
牛の角に松明を括り付けて追い立て、
敵陣を炎上させるという戦法を見たことがあるが。

狐の背中に烏を縛り
これと似たような戦い方をした時代があるというのだ。

この説は、大学生だった頃に高尾山を歩いていた人から聞いたので信憑性は分からないが、
当然敵陣に突っ込んだ後、
周りが炎上しているのだから狐と烏は死んでしまう。
そこから生れた神が火伏の神になるというのは…
なんだかとても納得できる気がするな。