とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

金剛寺の摩多利神さま

*摩多利神の姿*

前回、文治稲荷という小さな稲荷社の横にあった
摩多利神の石塔(石碑?)も文字のみだったように、
この神様の姿を見ることができる機会は少ない。

今回は前橋市関根町の「金剛寺」に行ってみた。
大きな本堂の左側、庚申塔青面金剛の石塔を過ぎると
摩多利神さまの御堂が建っている。

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もとはこの土地にあったのではなく片原にあったと言うが、
あの片原饅頭のあたりなのか片原公園のあたりなのかで
大分違ってくる…。
伝染病、特に日本では赤痢やチフスの神様で、
川沿いに祀られることが多いとされているが。
よく見ると鱗のようなものが見える。龍かな。

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そうだとしたら、水や川に関係が深い感じで嬉しいな。
堂内の奥まったところに何か祠っぽいのがある。

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しかし像や仏画が見える場所にあるわけではないので
姿は確認できなかった。
屋根にはしっかり「摩多利神」の文字!

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とりあえず実際お寺に行ってみたとしても
「あるけど普段は公開していないよ」という場合も多い。
ので、姿を確かめるだけならインターネットが一番!

その像容は三面六臂で怒髪天を衝く憤怒相。
象の皮を被り 両手にヤギと餓鬼(or男性)を掴む。

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偶然見つけた画像を拝借したものだが、
仏画の下に「上毛関根村別當金剛寺」とある。
私の行った金剛寺のものらしい。

あまりに特徴的な姿なので、
仏画が好きな方は今ので気づくかもしれないが。
胎蔵界曼荼羅の「摩訶迦羅天」と同じ姿である。
両手に掴んだ餓鬼とヤギは、
実はシヴァと彼の乗り物の白牛・ナンディン
とも言われ
仏教のヒンドゥー教への優位を暗示する構図らしい。
摩訶迦羅天とは読んで字の如く、マハーカーラのこと。
彼については大黒様に関する記事に書いたので省略。
チベットの無上瑜伽タントラという経典に登場する、
 勝楽金剛(チャクラサンバラ)という神様も
 白い象の生皮を剥いで纏っている。

まぁ、このまま素直に
摩多利神=マハーカーラだったのだ!
と言いたいところだけれど、
管理人は摩多利神≠マハーカーラ説を推したいので
今日もブログは長引きます…
(´・ω・`)ヤレヤレダゼ

*摩多利神と摩多羅神
ここでもう1つ、
摩多利神と似た名前の神様を紹介したい。
それが「摩多羅神」である。

管理人がずっと「行きたい行きたい」と
思ってはいるものの開催自体がされていないらしく
全然見に行けない「太秦の牛祭り」というのがある。

この祭りでは
神の面を付けた人が本物の牛にまたがり登場する。
これが摩多羅神である。
そして四天王と呼ばれる鬼を従えて境内をまわる。
(京都三大奇祭の1つとも言われている)

牛といえば牛頭天皇→疫病の神を連想させる。
これは あながち間違いでもないらしく、
国家安泰のほか疫病除けの効果もある祭りらしい。

この摩多羅神という神様は
猿楽師たちが守護神として祀った神とも言われる。
その猿楽師たちが
平安中期~後期に呪術的な色合いを強め、
寺院の加護を受けて発展したり
宮中の節分会(追儺)で鬼を祓う役を担ったらしい。

この「鬼を祓う役」が「方相氏」と同じなのかは
ハッキリとはわからないのだけれど。
追儺で鬼祓いを担う人を「方相氏」と呼び
下級官人である大舎人から選ばれたと言われている。

方相氏となる大舎人が猿楽師だったとしたら、
この方相氏が追儺の際には
・4つの金の目を持つ仮面をつけたこと
・徐々に鬼として払われる側になったこと
はとても気になるポイント。

というのも、
4つの目のある仮面という形式は、
中国の追儺にも見られるので日本のオリジナルではないが、
様々な芸能の中で猿楽(そこから生まれた能)は
仮面をつけて舞う代表的な芸能だし、
猿楽師に限らず
この時代から「ケガレ」の観念が広まり
今まで職務の一環として死に関わっていた人も
その職務の内容を理由に階級的に差別され始めた。
摩多羅神は、そうした歴史のある民の神である。

その猿楽の中でも「翁猿楽」と呼ばれる分野
(翁の面をつけて舞うもの)
は娯楽よりも宗教寄りの発展をしたと言われたりする。
それと関係があるのか摩多羅神の姿は
狩衣姿で鼓を叩く老人の姿をしている。

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そして、笹と茗荷を持った2人の童子が
彼の脇侍であるように手前で踊っている( ゚Д゚)!
というのが日光山輪王寺にある図像。
この子たちは丁禮多&爾子多と呼ばれ、
摩多羅神と合わせて三毒(=貪・瞋・癡)の象徴
とされているらしい。

ちなみに三毒とは
人間の苦しみの根源であり、
仏教の中で克服すべきとされる3つの心。
貪→必要以上に求める心
瞋→背くものに怒る心
癡→万物の理を理解しない心

テイレイタ・ニシタの2人は、
知名度が低いかと思いきや
アダルトゲーム「神咒神威神楽」に
テイレイとニコという名前で登場する。
(こちらでは夜行さんの式神として奮闘する!)

また二次元つながりでは、
夏目友人帳」の「にゃんこ先生」の正体は
斑(まだら)というもっふもふの狐のような妖。
夏目の用心棒でありながら妖怪側の存在であり、
寝ぼけて彼を食おうとしたり
死後に友人帳を譲り受ける約束もしている。

また「NARUTO」でも
うちは一族の長・うちはマダラは
木の葉隠れの里の創始者でありながら、
作中で里を危機に陥れる組織・暁の創始者でもある。

マダラと名の付くものは、
「境界」の性質が強いのかもしれない。
能楽を日本に伝えたのは秦河勝だという伝承がある。
(河勝さんは養蚕も伝えたと言われる渡来人)
能楽や芸能の神というよりは、
芸能を担っていた渡来人たちの神だったのかもしれない。

…だいぶ脱線したな(;´・ω・)カエリミチハドコダ…

気を取り直して、輪王寺の図像に戻る。
この図像の、摩多羅神の頭上に注目!
雲の上に何か白いポチポチがある。
北斗七星である(=゚ω゚)!

北斗七星は、
中国では北斗星君という神様とされる。
この北斗星君もまた老人の姿で表され、
死と運命を司り 死人を裁くと言われている。
死人を裁くと言えば、閻魔様。
若い人でも その姿は容易に想像できるハズ。

この閻魔様は仏教で閻魔天or焔摩天という名前。
ヒンドゥー教の「ヤマ」がルーツで、
ヤマの仕事もやはり死者を裁き死を司ること。

つまり摩多羅=北斗星君=閻魔=ヤマ
なのではないかなーと。考えられるわけで。

ちなみにこの焔魔天は
冒頭で摩多利神と姿が同じだと紹介した
「摩訶迦羅天」と一緒に冥府で仕事をしている。


*摩多利とマーター(母)*
摩多羅神から摩多利神に話を戻すのだけれど。
「マダリ」「マタリ」という音には、
「摩多利」や「摩怛哩」という漢字が当てられる。

「マーター(माता)」は
現代のヒンディー語でも母という意味で、
この「マタリ」という言葉も母を指すらしい。
特に、インド神話的には
重要な神様の奥さんたちで構成されたユニット
「七(or八)母天」やそのメンバーを指してそう呼ぶとか。

そこには、
ブラフマニー(ブラフマーの妻)、
ヴァイシュナヴィー(ヴィシュヌの妻)
などの有名どころや、
クマリー(クマラの妻。クマラは、アグニJr.スカンダの異名)、
チャームンダー(ヤマの妻ともいわれている)
などが所属している。

そして最後に書いたチャームンダーこそ、
今回の「摩多利神」のルーツだと言われる場合が多い。

こちらはギスギスのおばあさん女神さま。
マハーカーラと同じくシャムシャナ(尸林)に住まい、
死や疫病を司り死体のはらわたを食べる…|д゚)コワスギル
その手足はハンセン病に罹患しているために
溶けたように表現されていることが多い。
※普通に健康的な若い女神さまの作例もある

彼女は あの遠藤周作の「深い河」にも
旅行先の寺院にある像のひとつとして登場する。
そこでは老いや飢え、病など
インドのすべての苦しみを背負ってなお
母である地母神として紹介されている。

中国や日本に入ってきてからは、
「遮文荼天」と呼ばれ、猪の頭を持つ女神さまに。
なんで急に猪?と思われるかもしれないが、
おそらくチャームンダーと遮文荼天の間に
チベットの「金剛亥母(ヴァジュラ・ヴァラーヒー)」
が挟まっているため。

チャームンダーが疫病と死の神であるのに対し、
彼女は疫病に対する治癒力を持つ女神であり、
顔の横にイノシシの顔を持つ。
シヴァ神の日本での姿・青頸観音も
三面で向かって右に猪の顔を持つので、
何かシャムシャナに関係ある動物なんだろうか。
(´・ω・`)
ヴァジュラ・ヴァラーヒーに関しては、
その猪の鳴き声で悪霊を祓うとも言われているらしい。
それがイノシシパーツのみ残って遮文荼天に。

そして実はこのヴァジュラ・ヴァラーヒーこそ、
最初の「白象の生皮を纏っている」という部分で
マハーカーラとともに紹介した
勝楽金剛(チャクラサンヴァラ)の御后様!
(=゚ω゚)ノ

*摩多利神と摩多羅神は夫婦?*
日本ではもはや、摩多利&摩多羅は
対として語られることはないようなイメージ。

しかし、上で書いたように
摩多利神のルーツであるチャームンダーは
焔摩天のルーツ・ヤマの奥さんであり、
その焔摩の后様は遮文荼天。

ヤマの同僚・マハーカーラと似た姿の
勝楽金剛(チャクラサンヴァラ)の奥さんは
遮文荼天と同じく猪の頭を持つ
金剛亥母(ヴァジュラヴァラーヒー)。

一方の摩多羅神
正式にルーツだと書いてあるものはないけれど、
仕事内容からすると
北斗星君・焔摩天・マハーカーラと似ている。

またクマラの妻がクマリ、
ヴァラーハの妻がヴァラーヒーであるように
ヒンディー語では
男性語尾であるaをiに変えることで女性語尾となる。
(変形の仕方もいろいろ種類はあるのだろうけれど)
日本に来てからの名前なので
あまり関係ないかもしれないが、一応。
マタラの最後のaをiになおすとマタリになる。

日本の多くの場所で摩多利神の姿が
マハーカーラっぽい男性的な感じなのは残念だけれど、
同時に入ってきた時に混同されて
摩多羅の姿は摩多利に取られてしまったので
彼だけが極端に日本的な姿なのかもしれないし。
もしくは、
ヤブユム(和合した状態の図像)として輸入されて
「この方が金剛亥母ですよ。病を治してくださいます」
と女性神をさして説明された際に
正しく女性神を取り入れたのが遮文荼天、
夫である勝楽金剛を本体だとして取り入れてしまったのが
摩多利神という可能性も…
無くはないかも(´・ω・)
というところで今回は終わりにしますー。
(長かった…)

またいつか書くかもしれませんが、
日本でチャームンダー的な容姿を残しているのは
実は今回一度も触れなかった「奪衣婆」だけかも。
彼女は閻魔様の妻とも言われる、
やはりガリガリのおばあさん。
懸衣翁と一対で働いているのに、
わざわざ閻魔様の奥さんという噂が立つのが
( *´艸`)キニナル
またの機会にですねー。