とまのす

ちいさくゆっくり、民俗さんぽ

豊川稲荷とダキニ天さま。

前回の記事・隆興寺の敷地内に豊川稲荷がある。

寺院の敷地内にある神社は、
その寺院と敷地を守る「鎮守神」とされることが多い。
神仏分離廃仏毀釈が行われる前は、
今よりさらに多くの寺院がそうだったのだろうと思うけれど。

ただ、ここのお稲荷様は
愛知県の豊川妙厳寺さんからお招きしたらしく。
そもそもお寺から招いたということは
これは稲荷「社」でなく 稲荷「寺」であって、
鎮守神とは全く違う扱いになるんだろうか。
単に「敷地内にお寺が二軒ある」状態なのか?

たしかに、賽銭箱の上には鈴でなく鰐口が設置されている。
でも例外もあるだろうし…

…わからん…(ノД`)・゜・。

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寺にしろ神社にしろ、
手水鉢もお稲荷様らしく火炎宝珠。
数年前に閉めてしまったらしいが、
敷地内に幼稚園だか保育園があったということで
可愛らしい柵がしてある。
そして蓋を閉められていて手が濯げなかった…。



*狛狐と境内*

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書いてから思ったのだけど、
阿吽の動物をよく「狛〇〇」というけれど、
あんまり狛狐って言わない気がする…。
眷属じゃなくてもはや、
狐自体が神聖視されてしまっているせいか?

なんか巻物を持っているほうが、
夕日の正でイケメンアングルになった。
直線的でロボットみたい。脚もがっちり!
なんだか独特な面立ち(´・ω・`)

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大木と寄り添って、
落ち着いた雰囲気を出している。

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階段の両脇に装飾的に置いてある、
火焔宝珠の瓦!お稲荷様専用感があっていいなー。

*ダーキニーから吒枳尼天へ*

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一般的に、稲荷神社には「〇〇稲荷」というのぼりがある。
しかし豊川稲荷は紅白の「豊川吒枳尼天」のぼり。

お招きしたモトの神様が
神社の稲荷神・ウカノミタマノカミでなく
寺院の吒枳尼天(だきにてん)だからか。

ウカノミタマが日本の神であるのに対して、
吒枳尼天はヒンドゥー教から来た神様。
元の名前はダーキニーという。
もともとはジャッカルの精霊と言われ、
人間の肝や心臓をむさぼる恐るべき鬼女たちのこと。


それがシヴァとその妻の傘下に下り
(↑おそらく少数民にヒンドゥー教が布教された隠喩)
シヴァの妻で美しくも激しい戦女神・ドゥルガー
怒りによって黒く染まった額から現れた、
血を好む殺戮の女神・カーリーの、
侍女・ダーキニーという位置を与えられた。

ヒンドゥー教の中でも
尸林で苦行をしたり人肉食を行った流派
=死を強く意識した流派
のみで知られインドではメジャーでもないらしい。

しかしチベットでは結構重要な神様になったりして
無事、密教に乗って日本まで到着。
来日当時は閻魔大王の部下・吒枳尼で、
死体の肉や短剣を持った血なまぐさい鬼神だった。
平安初期の胎蔵界曼荼羅では
半裸で胡坐をかいて肉を食べている。

これがどういうわけか中世になると
急に「狐に乗った天女」という像容になり、
服もちゃんと着ているし、
肉を手づかみで食べたりもしていない。
天皇の即位の儀式にも参加するなど、
貴族たちにも大人気。

ただし、レディになったのは像容だけ。
その命を捧げ一生正しく信心すること。
途中で信仰をやめたり怠ろうものなら、
途端に富や名誉のみならず命まで奪う!
という
相変わらずキケンな女性だった…(;´・ω・)

急にキツネが登場したことについては、
インドに居たころのジャッカル要素復活!?
とも思ったが、
中国では全くその要素が無いのに
日本に渡ってから復活するとは考え難い。

単純に
動物や人の死肉を食べることがある狐が
死肉をむさぼる吒枳尼と重なり合った結果、
荼枳尼自身は残酷性を排除して神様らしく。
その分の野蛮さや残酷性の象徴として狐を追加。
ということなのかもしれない。

その後は、
そのキツネが稲をネズミから守る動物
ということで五穀豊穣の守り神にされたり、
吒枳尼天は願う人を選ばないということで
遊女や博徒も彼女にいろいろなお願い事をしたり。
親しみも込めて「お稲荷様」と呼ばれ、
武士や農民から商人まで大変もてはやされた。

この辺からは吒枳尼様もだいぶ丸くなって、
祟るだの呪うだのとあまり言われなくなった。
先日「kawaiiと信仰を考える」で書いたような、
人間のご都合主義が発揮され始めた結果かな。

*ウカノミタマと吒枳尼天*
現在では、稲荷を祀る場所といえば
ほとんどが神社という感じになっている。
なのでこの豊川稲荷の大モトである
愛知県豊川稲荷なども、
稲荷=神社ね!と思われることが多いようだが。
別に「〇〇稲荷」だからと言って絶対神社!
とは限らないわけである。

ただ 神仏分離により
神社では吒枳尼天は祀れず、
お寺では稲荷・大明神の呼称は使用禁止よ!
ということになった。
いままで吒枳尼天が居た神社は
「五穀豊穣の神様に変わりはないんだから
  ウカノミタマノカミにしときなさーい!」
と言われてそうすることになったり、
吒枳尼天を本尊にしていた寺が廃寺になったり。

そんな嵐が吹き荒れた結果、
妙厳寺は吒枳尼天を本尊とする
数少ないお寺になってしまったわけ。

なので、全国で稲荷「寺」を見たら、
それはだいたい愛知の妙厳寺からお招きした吒枳尼天。

一方全国の稲荷「神社」は地元のものも混じりつつ、
残りはほぼ伏見稲荷大社からお招きしたウカノミタマ。

愛知と京都から全国へ吒枳尼天とウカノミタマが
狐にまたがり走って散らばっていくのを想像すると、
何だかカワイイ…(*´ω`)

 

*懸魚と瓦*

懸魚(げぎょ)とは、
神社やお寺の屋根下に設置する彫刻を施したパーツ。
相輪や鴟尾と同じく火災除けで、中国伝来の風習。
※古代中国では実際の魚を吊るしたらしい。
今や魚っぽくない形状になっている物も多いが、
見づらいだけでほぼ必ずあるはず。

大体は竜とか雲なので、
「ここもそうだろう」と始めは見落としていた。
が…なんと、狐が3匹!
こんなデザイン今まで見たことなかった!
しかも、細い線の繊細な彫刻!

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地味ながら、今回管理人が一番感動したポイントでした!
。*(=゚ω゚)ノ+
瓦も、稲の束の模様。てっぺんの瓦は火焔宝珠。
こんなに細かいパーツまでお稲荷様専用なの初めて!
(・ω・。)
建物を守る2匹は各々「巻物」と「宝珠」をくわえていたが。
この子は「鍵」をくわえている。

巻物は経典とも言われて、仏法の重要性もしくは知識を。
宝珠は神の力を。
鍵は巻物の知識を宝珠に適切に使うためのカギ。
とも言われている。
(諸説あり)

今まで見た一対の狐のほとんどが
片方が必ず宝珠を持ち、もう一方は鍵か巻物。
という分担になっていて、
一対で鍵と巻物をそれぞれ持っている
という組み合わせを(私はまだ)見たことがない。

なので、巻物と鍵は同じなのではないか?
と考えたり…
むしろあの巻物というアイテムは最初は無くて、
石造りの狐の鍵の先が折れたものが
参拝者に巻物と勘違いされたところから
初期装備=巻物な狐が生まれたのではないか?
と思ったり。

妄想は尽きないけれど、
今回はなんだか嬉しい気分になった散歩でした
(*´ω`)
良いおうちから、
これからもみんなを見守ってくださいますように。